「仮分割の仮処分」の申立てについて

相続・遺産分割に多大な影響をもたらす最高裁平成28年12月19日決定(以下のとおり、本ブログでも取り扱っています)を受け、家裁の実務にも変化が出てくるようです。

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大谷剛彦ほかの補足意見が重要ですので、引用します。

裁判官大谷剛彦,同小貫芳信,同山崎敏充,同小池裕,同木澤克之の補足意見は,次のとおりである。

従来,預貯金債権は相続開始と同時に当然に各共同相続人に分割され,各共同相続人は,当該債権のうち自己に帰属した分を単独で行使することができるものと解されていたが,多数意見によって遺産分割の対象となるものとされた預貯金債権は,遺産分割までの間,共同相続人全員が共同して行使しなければならないこととなる。そうすると,例えば,共同相続人において被相続人が負っていた債務の弁済をする必要がある,あるいは,被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費を支出する必要があるなどの事情により被相続人が有していた預貯金を遺産分割前に払い戻す必要があるにもかかわらず,共同相続人全員の同意を得ることができない場合に不都合が生ずるのではないかが問題となり得る。このような場合,現行法の下では,遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分として,例えば,特定の共同相続人の急迫の危険を防止するために,相続財産中の特定の預貯金債権を当該共同相続人に仮に取得させる仮処分(仮分割の仮処分。家事事件手続法200条2項)等を活用することが考えられ,これにより,共同相続人間の実質的公平を確保しつつ,個別的な権利行使の必要性に対応することができるであろう。

もとより,預貯金を払い戻す必要がある場合としてはいくつかの類型があり得るから,それぞれの類型に応じて保全の必要性等保全処分が認められるための要件やその疎明の在り方を検討する必要があり,今後,家庭裁判所の実務において,その適切な運用に向けた検討が行われることが望まれる。

 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/354/086354_hanrei.pdf

 

家事事件手続法200条は、次の条文です。

(遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分)

第二百条  家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。次項において同じ。)は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、財産の管理のため必要があるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てさせないで、遺産の分割の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、財産の管理に関する事項を指示することができる。
2  家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
3  第百二十五条第一項から第六項までの規定及び民法第二十七条 から第二十九条 まで(同法第二十七条第二項 を除く。)の規定は、第一項の財産の管理者について準用する。この場合において、第百二十五条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「遺産」と読み替えるものとする。

 

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H23/H23HO052.html

 

これに関し、日本加除出版の『家庭の法と裁判』2017年9月号の特集座談会(大法廷決定をめぐって)において、片岡武東京家裁判事が裁判所内での検討結果を説明しています。

片岡判事は、仮分割仮処分の類型は、3つが一応考えられるのではないかと言っています。

類型1 扶養を受けていた共同相続人の生活費とか施設入所費の支払を目的とする場合

類型2 葬儀費用とか相続税の支払など相続に伴う費用の支払を目的とする場合

類型3 被相続人の医療費と被相続人の債務の支払を目的とする場合

確かに、これらに関しては、遺産分割がすぐにまとまらなくても対処が必要な事項でしょう。新判例が出されて一部の払戻しの請求が困難となったなかで、仮処分の申立てをすることができれば便利なケースも出てくるでしょう。